床屋の2階(1)
小学生の頃ぼくはいろいろな街に移り住んだ。
それはぼくがサーカス団の玉乗りだったからではない。
単に父親の仕事の関係であちこちと転校したからだった。
長い時で1年、短い時だと3ヶ月で違う街へ移った。
父親がどんな仕事をしているのか父親に訊いてもその都度答えが違っていたので今でもよくわからない。
片足が不自由だったので少なくともサーカス団の団員ではない。子供ごころにあまり人に言える仕事でないような気がしていた。
ぼくが中学生になってしばらくして、ぼくと3歳下の妹は施設に預けられた。
母親は妹を生んですぐに亡くなっていた。妹はもちろんぼくにも母親がどんな人だったのかまったく記憶にない。父親から聞いた話しなので、本当のところどうなのかはわからない。
父親は施設の先生に何度も頭を下げてからこちらの方をちらりと見ただけで、片足を引きずりながら背中を丸めて坂道を下っていった。
それが父親を見た最後の姿だった。